大判例

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横浜地方裁判所 昭和23年(タ)18号 判決

原告 山川太郎

被告 山川八十 (いずれも仮名)

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「原告と被告とを離婚する。原被告間に出生した長男一雄の親権者及監護者を被告と定める。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、その請求原因を次のとおり述べた。

「原被告は昭和三年十一月二十五日訴外松田虎雄外一名の媒酌で事実上の婚姻をなし、爾來同棲し翌昭和四年四月二十二日婚姻の届出をおへた。而して昭和五年三月十二日長男一雄を儲けたが右長男出生後、原被告は折合惡く互に愛情はなく原告は一日も被告と婚姻生活を継続するに耐え得なかつたので昭和九年十二月二十八日、やむなく被告の居住する茅ケ崎市の原告実家を出奔し、爾後十数年間曾て被告の許に戻つたことはなく訴外池部栄子なる女性と同棲し、訴外中村誠を養子として藤沢市に別居している次第である。

右の如き事情は婚姻関係を継続し難い重大な事由に該当するので、原告は度々離婚の調停を申立てたが、被告はたゞ感情にのみ捉はれこれに應ぜず、調停は不調に帰したので右の事由を理由として、被告との離婚を求めるため本訴請求に及んだ。」

被告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、原告の請求原因事実に対して次のとおり答弁した。

「原告主張の事実中、原告と被告とが原告主張の様な経過を以て婚姻をなし、その間長男一雄をあげたこと、原告が昭和九年十二月二十八日被告と同棲していた茅ケ崎市の原告実家を出奔し爾後被告の許に戻らず、池部栄子と夫婦同様の生活をしていること、原告が被告を相手方とし離婚の調停申立をなしこれが不調に終つた事実は認めるが右以外の原告主張事実はすべて否認する。

原告が右のとおり出奔したのは女遊びのためであり、被告と折合が惡かつたためではない、原告は遊興のため、実家の金銭を浪費し遂にその両親の申立により昭和十年二月九日横浜地区裁判所より準禁治産の宣告をうけたほどであつた。そればかりか原告は池部栄子と婚姻しようとして被告の印鑑を無断使用して虚僞の離婚届を昭和十七年三月十七日横浜市中区長に提出したが被告は当時原告の両親のすゝめにより横浜地方裁判所に離婚無効確認の訴を提起し、原告勝訴の判決をうけた。

原被告間には長年実質的夫婦関係はたえているが、被告の原告に対する愛情は少しも衰えず、十数年の空閨を強いられた今日尚原告が被告の許に帰るのを信じて帰宅をまつている。

以上のとおり四十余才の今日迄原告家のために奮斗している被告は、「婚姻を継続し難い重大なる事由」の責任者ということはできないから原告が被告に対し離婚を求める本訴請求は棄却せらるべきである。」

<立証省略>

三、理  由

その方式及趣旨により公務員がその職務上作成したものと認むべきにより眞正に成立したと認めうる甲第一号証(戸籍謄本)及び原被告各本人訊問の結果を綜合すれば、原告と被告とが昭和四年四月二十二日婚姻をなし、昭和五年三月十二日に長男一雄を儲けたこと、原告が昭和九年十二月中被告と同棲していた茅ケ崎市の原告家を出奔し、爾後池部栄子と称する女性と同棲し、同人と夫婦同様の生活をなし、被告とは十数年間別居していることを認めることができる。原告は、原告と被告との婚姻関係が、かゝる状態になつたのは長男一雄出生後夫婦の折合惡く互に愛情は更になく、かゝる婚姻生活を持続することは精神的に一日とし堪え得なかつたためであると主張するが、原告が右の如く妻たる被告を顧みず他に女性を求めてこれと同棲することを正当として認容しうるが如き事情が存することはこれを認むべき証拠はない。却て証人野村俊男、中川三男の各証言及被告本人訊問の結果を綜合すれば原告は右池部栄子と知合うに至つてから被告と折合が惡くなり出奔するに至つたものであることを認めることができるから原告と被告との和合を欠くに至つた原因は原告に存するもので、簡單にいえば、原告と被告との夫婦関係は夫たる原告に情婦ができたため、和合を欠き原告は昭和九年十二月以降情婦と同棲して妻を顧みず十数年を経過したものということができる。

おもうに婚姻生活は男女の本質的平等に立脚し、相互の深い愛情と理解によつて結ばれ互に協力してこれを維持して行かなければならないのであつて、長い婚姻生活の中には或は意思の疏通を欠き互に不満を感ずることもあろうが、かゝる事態に立ち到つたときは相互にその障碍を克服する様最善の努力をすべきであり、一時夫婦の和合を欠くことがあつても配偶者の一方が他に異性を求めて、これと同棲し、婚姻生活の破綻を招來するが如きは許されず、これがため夫婦関係が有名無実に帰するも自ら招いた結果であつて、これを理由に離婚を求めえないものといはなければならない。

果して然らば原告より被告に対し離婚を求める本訴請求は失当であるからこれを棄却し訴訟費用は敗訴の当事者である原告の負担とし主文のとおり判決する。

(裁判官 山本信政 地京武人 樋渡源藏)

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